馬の帝王切開
分娩予定日には2日早いある日の午後、放牧地から厩舎に母馬を連れてくると何となくお産の匂いがすると連絡がありました。
お産の匂いとは、羊水の匂いのことで生臭いやや酸臭です。
外陰部をみるとお産の時のような緩みはなく、破水した跡も見えませんでした。
内診をすると子宮外口は15センチほど開き、胎盤は破れていました。手を抜くと腐敗した胎盤がついてきました。やはり破水していたのでした。さらに胎盤が腐敗しているということは胎児に酸素が充分に送られていないことが考えられます。もう一度手を入れると胎児は動いていました。
さて、どうしましょう?子宮外口は胎児が通れるだけ開いていません。破水してから相当な時間が経っていても子宮外口が開かないのですから、おそらくこれ以上は開かないと思われました。
「帝王切開により胎児を出すしかないです。ただ胎盤が腐敗していることから胎児を助けられるかわからないし、この状態で子宮を切開すると母馬も危険でしょう。しかし、胎児は生きているので少ない可能性にかけましょう。」という私の意見に牧場主は賛成してくれました。
次に私は2次診療施設へ電話して状況を話し、専門の獣医師にやってみてほしいとお願いしました。獣医師は快く引き受けてくれました。
すぐに馬運車で運びました。帝王切開により胎児は生きて生まれてくれました。母馬もその後の後遺症もなく元気になりました。
子馬は予想通り脳酸素欠乏と敗血症であったため7日間は自力で起立することも飲むこともできませんでした。その間、牧場のスタッフたちの献身的な看護により、ある時介助なしで起立し母乳を吸い始めました。
私はスタッフたちと大いに喜びあいました。